熊谷朝臣の備忘録

自分のための備忘録です。時に告知板だったり、時に(誰も聞いてくれなかった)自慢話したりします。

ローレンツの話で言いたかったこと

 前回の話の続きです。何が言いたかったかって言うと、

狭き門より入れ、滅にいたる門は大きく、その路は廣く、之より入る者おほし。(「狭き門」アンドレ・ジイド、の冒頭に登場する聖書の言葉)

なのです。もしくは、

王道を歩め。

でしょうか。

 僕らの分野は、応用科学であり実学です。色んな分野の科学を結集して事に当たらなければなりません。でも、本当の科学の花形は、純粋な数学であったり物理学であったり、分子生物学であったりします。そして、本当に優秀な人は、そんな純粋な分野にいます。それは、日本で、本当に運動神経の良い人は、野球というスポーツに集中していることに似ていると思います。僕らは、まず、それを認める必要があると思うのです。

 だから、まずは、”狭き門”に入り、”王道”を歩むべきだと思うのです。そして、もちろん、興味に応じて、でも良いし、使命感に駆られて、でも良いでしょう、能力の限界を感じて自分の向く道を決める、だって良いのです。まずは純粋科学(と呼ばせてください)に興味を持つべきです。少なくとも、それを勉強の中心に据える時期があるべきです。

 僕の話ですが、もちろん、僕には数学者物理学者になる能力はありません。が、それを使って、地球を守ることはできるぞ、森を守ることはできるぞ、環境科学、特に、森林の環境に関する科学をやるぞ、と考えました。だから、一生懸命、数学や物理学、化学、生物学の基礎を勉強しました。もちろん、その専門の学者になることはなかったですが。

 で、王道としての学問分野は、地球物理学の一分野、生物地球科学であると定めました。森林科学は生物地球科学の一部であると考えたのです。だから、僕の主要学会は、アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union: AGU)となったのです。格闘技的な物の言い方をするならば、

自分より強いヤツをが一杯いるところに行って、みんな倒して最強になる。

を目指したのです。どんだけ道は遠いのかって感じではありますが、自分に言い訳しながら歩んで行くのだけはまっぴら御免だ、と思ったのです。

 僕の分野に興味を持つ若い人たちに言いたいことです。堂々と狭き門を入り、王道を歩みましょう。歩きやすい道は、大抵の場合滅びに至る道です。

(最近、「ブログ読んでます」って言う若い人が増えたんで、柄にもなく、こんなこと言ってみました。)

 

 

ローレンツの話:再録

ちょいと思うところあって、昔、日記に書いたこと再録します。

ゾイデル海の水防とローレンツ」(科学者の自由な楽園、朝永振一郎著、岩波文庫)について思ったことです。

 20世紀初め、オランダで水害防止のため、ゾイデル海の入り口にダムを造ることになった。すると、そのはね返しで、ワッデン海沿岸の潮の上げ下げに影響があるという。ワッデン地方の堤防の高さを決めなければいけないのだけれど、低すぎると高潮の時、大被害が起きる。高すぎるなら、莫大な国費の無駄使いだ。

 この時、この堤防の高さを検討したのは、H・A・ローレンツだった。高校物理程度でもかじったことがある人間なら、電磁気学で必ずその名前を聞いたことがあるだろう、あの大物理学者ローレンツである。ここで強調しておきたいのは、確かにローレンツは人類の歴史に残るほどの大物理学者であるけれど、海洋学も土木工学も全くの素人であったということだ。

 しかし、ローレンツは、最初の潮の干満の観測の段階から、新しい検潮儀の設計を行なった。そして、正常時の潮の干満だけでなく、暴風時の高潮の理論を構築し、その数理的近似解法まであみ出した(理論もこの近似解法も、当時の土木工学者や海洋学者には全く手に負えないものであったという)。

 ローレンツの理論物理で鍛えた数理手法と、やはり天才的な、物理現象を的確に掴む勘によって初めて成される仕事だと思う。

 この件で見習うべきは、その問題に取り組む時の科学的態度だ。現実の問題に取り組む時、経験則が多用される(もちろん、それを否定するつもりはない)。しかし、ローレンツはそれをせず、徹底的に物理学的理論で攻めた。

 まず、単純な理論を立て、(実験室で)実験をし、確認をする。そして、少し複雑な理論に挑戦し、また、実験・確認する。こうして、定常的潮位変動から非定常問題、つまり高潮の理論が完成されたのだった。この単純から複雑な現象の解明の流れの中で、すこしでも躓きがあったら、それが解決されるまで決して歩を進めなかった。

 そう、この科学的能力はとても真似できないけど、この科学的態度は真似できる。

 もちろん、経験則を用いるしかない場合があるのを否定したりはしない。でも、特に環境科学系では実学だとか、人様のお役に立ってこそ、とかを理由にして物理法則から逃げ、精緻な理論を構築することから逃げる傾向があると思う。いやそれどころか、ある実学系の人にとっては、「何を人様のお役に立たないことをやってるんだか?」とか「机上の空論ばっかりやりおって!」と、理論に拘る人をまるで”理論に逃げている”かのように見ているようだ。

 僕は”理論”から逃げたくない。僕の科学的能力はたかが知れているようなもので、理論に拘った結果、何も結果を生み出さない可能性だってある。だけど、科学的態度だけは堅持したい。これだけが、環境科学という分野で僕が”科学者”を名乗っている理由だ。

 ゾイデル海の工事が終わったのは確か1930年頃。その後、幾度となく高潮の被害が防がれたが、1950年頃の異常高潮の際においても、ローレンツの理論・計算結果の正しさは驚くほどであったという。・・・徹底的に理論に拘った結果だと思う。精緻な理論で構築された策は、どのような条件に対しても”柔軟で堅固だ”と信じる。

ついでに、Gabyとの思い出

続いて、こんなことも思い出しました。

Gaby(Gabriel Katul先生)との思い出です。一緒に金閣寺行ったわけですが、後ろからこっそり写真撮られてたわけです。こんな感じで。

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で、Gaby、これを世界中の仲間たちにメールしました。曰く、

「Tomoは、新しい研究室をどのビルに置くべきか考えていたんだけど、ようやく決めたらしい。」

・・・あまり返事が返って来なかったみたいだけど、これが冗談だって通じたんだろうか?

Ram先生との思い出―その2

Ram先生との会話の中で、印象に残ってることがあります。

何かの会話の流れの中で、誰かが、

「親は誰しも、子供の幸せ(happiness)を願うものだ。」

と言いました。それに対して、Ram先生、

「親が願うのは子供の成功(success)だ、幸せ(happiness)じゃない。幸せを願ってるのだとしたら、好きなだけテレビゲームをさせれば良いし、好きなだけお菓子を食べさせれば良い。それで、子供はhappyだって感じるだろ。」

と。まともな親なら、テレビゲームのさせ過ぎもお菓子を好きなだけ食べさせることも子供のためにならないことは分かってる。だから、今のhappinessを我慢させて未来のhappinessーそれを成功(success)と呼ぶーを願うんだ。

「うまいこと言うなぁ。」と僕。で、

「親が自分の子供の今の幸せでなく未来の幸せを願うって、すごく進化生物学的だよね。自分の遺伝子を未来へと繋いでいこうってしてんだから。」

なんか、夢の無い話で終わってしまいました。

Ram Oren先生とのこと

長いことブログが更新されてない、と、最近指摘を複数受けたので、更新してみました。思い出すこともあったので。

Ram Oren先生がウチの研究室に滞在して帰国して、ちょうど1年くらいですね。あぁ、あれからもう1年たったのか、と。

Ram先生、九州大学で講演することになって、一緒に福岡に行きました。で、講演3時間ほど前かな、まだ、時間があるので九大福岡演習林の近くの神社、伊野皇大神宮(実は、僕、そこで結婚式しました)に行きました。そこには、すごく立派なスギ(千年スギと言うに相応しい)があって、見せたかったのです。

スギを見終わったあと、僕がこんなこと言いました。

「この神社の裏山もスギ林と広葉樹林コントラストが美しい森林です。頂上まで10分ほどで行けるから、登ってみますか?」

で、Ram先生、是非登りたいということに。

登ってる途中雨が降り始めるは、そもそも10分で登るなんて無理だし(僕の勘違い、てへ)、下山では道、間違えるし、総行程、2時間かかってしまったぁ。下は、その山(遠見岳と言います)頂上での写真。Ram先生、疲労困憊ですね。

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で、講演会場に着いたのは、講演10分前。僕ら、もちろんRam先生も、汗だく・泥だらけです。

・・・なんとか時間通りに講演が始まりました。そして、講演の冒頭

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「みんな、Tomoは嘘つきだ。ここに来る前、10分で登れるからっていうんで山に登った。そしたら、登って下りるのに結局2時間だ。Tomoは嘘つきだ。彼を信用するな。彼は嘘つきだ。

だって。とても、講演の冒頭の言葉とは思えませんが、いやぁ、ホント申し訳なかったです。でも、今となっては、良い(か?)思い出で、Ram先生とのメールのやり取りで、いまだにこの話題が出るのです。

近況

 だいぶ更新してませんでしたが、最近、色んなことがありました。例えば、手術したり、入院したり。

 で、まあ、既に退院して半月ほど経ちますが、退院して家に帰ったら、こんなのが貼ってありました。

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うん、まあ、嬉しかったんでここで紹介させてもらう次第であります。

 

 退院後、家で女房とテレビ見てたら、三代目J Soul Brothersが出てまして、

僕 : また、このくらい踊れるように復活しなきゃな。

女房:手術前も、こんな風に踊れた訳じゃないでしょうが。

なんて会話もありました。

僕 : 小橋健太も藤原善明も大きな手術の後、リングに戻った。俺も、またリングに戻れるよう頑張らねば。

女房:手術前も、リングに上がったことなんてないでしょうが。

なんて会話もありました。

 ま、とにかく、復活すべく日々精進する所存です。