熊谷朝臣の備忘録

自分のための備忘録です。時に告知板だったり、時に(誰も聞いてくれなかった)自慢話したりします。

英文(日本語)の書き方について

卒論・修論のシーズンです。で、学生さんの書いた文章の手直し仕事追われているわけですが、学生さんたちに是非読んでおいてもらいたい文章思い出しました。2013年に書いた文章です。以下、

Tomo'omi Kumagai - Journal_September 2013

からの転載です。

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 そうそう、実は、今、僕が共著に入ってる投稿前の論文が6本もある。まだまだ増える様相で、ある種バブルな感じ。いや、共同研究者のみなさんの努力が次々と実を結んでいるようで敬意を表する次第ですが、単純に僕も嬉しいのです。

 しかし、この現在も増殖中の投稿前論文、投稿前論文と言うからには、これからまだまだ読み込んで、コメントして、議論して、書き直してもらって、チェックして・・・というプロセスが待ち構えてるわけです。もちろん、仲間には、もう経験豊かな研究者もいますが(こんな人たちには、何にも言うことないです)、まだまだ経験が必要なビギナーもいます。ビギナーは、しょうがないです、一杯一杯チェック攻撃・書き直し要求攻撃を受けてもらうことになります。

 そこで、ビギナーに感じたこと、もちろん、たいていの場合、英語が砕け散ってるのですが(そりゃ、しょうがない、だって経験量が絶対的に不足しているのだから)、英語以前に論理的な文章の書き方のトレーニングが出来ていないようです。もっと言うなら、英語以前に日本語が出来ていないのでしょう。

 ビギナー(を自認する方、ん、そうすると僕もか?)のみなさん、ここでアドバイスです。たとえ英語で論文を書くのであっても、まず、日本語で丁寧な文章を組み上げて下さい。僕たちの母国語は、あくまで日本語で、いきなり英語で、深い思考に基づく論理的文章を書くことは不可能だと思うべきです。まず、母国語を使って論理的文章を作り、その後、適切な英語表現を選んで”はめていく”のが最善の道です。

 今、”はめていく”と言いましたが、受験の時、「英作文(えいさくぶん)は英借文(えいしゃくぶん)」って聞いたことありませんか。英語ネイティブでない僕らが、自由自在に英文を書こうというのは、どだい無理な話なのだと知るべきです。僕らにできるのは(英語論文を書く場合)、普段から一杯一杯(英語ネイティブの書いた)論文を読んでおいて、英文文例のストックを豊富に持っておいて、必要に応じてそのストックから”英文を借りることくらいでしょう。そして、経験を重ねるにつれて、わざわざ”ストック”を参照するまでもなく英文が書けるようになります。・・・正直言いましょう。僕が、”ストック”をあまり参照せずに論文を書けるようになった(あと、日本語で前もって文章を作らず論文を書けるようになった)のは、ここ2、3年のことです。僕はどちらかと言うと、鈍臭い部類に入るので、できるようになるまで長くかかった方だと思いますが、”ある程度書けるようになる”まで結構苦労した(してる)んですよ。

 自分が書いた英文が適切かどうか調べる方法はその英文を虚心坦懐に(自分じゃない他人が書いたものとして)和訳することです。ダメな英文は訳せないはずです。もしくは、何を言ってるのか分からないんじゃないでしょうか。日本語で何言ってるのか分からないものが、英文で正しいわけないですよね。

 よく、こんな例え話します。小さい子は、よく、自分の顔だけを隠して隠れたつもりになります。ウチの子なんか、小さい頃、よく、自分の目だけ隠して「どーこだぁ?」ってやってました。あ、障子の向こう側に顔だけ隠して「どーこだぁ?」ってのもありました。要するに自分から見えないものは相手からも見えないって錯覚です。でも、これは、大人にだって当てはまるのです。「自分が分からないものは、みんな分からないんじゃないか。」と思う傾向はありませんか?自分で書いたわけわからん英語は、自分でも分かってないから、他人の理解も、こんなもんだと思って、適当な英文書いてませんか?

 根本的解決としては、日本語で良いから、いや、日本語でなきゃできない、が正しいですよね(深い思考は、僕たちには、日本語でやるしかないのだから)、日本語の論理的文章を書くトレーニングをしっかり積むことです。そこで、僕はよく、この本をお奨めしてます。

「日本語の作文技術」(本多勝一著、朝日文庫

https://www.amazon.co.jp/%E6%96%B0%E7%89%88-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E3%81%AE%E4%BD%9C%E6%96%87%E6%8A%80%E8%A1%93-%E6%9C%9D%E6%97%A5%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%9C%AC%E5%A4%9A-%E5%8B%9D%E4%B8%80-ebook/dp/B01MYXH4J1

です。本多さんと言えば、大変著名なジャーナリストですが、その文章作成技術・理論はとても科学的です。実は、僕自身は、この本を読んだのは、多分浪人生の頃、友達に奨められて(受験国語対策)だったと思うのですが、この本が科学・学術論文書きにも、もの凄く役に立つということに気付いたのは、割と最近のことです。で、人に奨めることが増えたので最近買い直しました(さすがに、手元に無いと、適切なお奨めはできません)。

 すぐに論文の数が必要な世知辛い世の中になってきました。が、こんなところ(日本語の書き方)に立ち返ってみるのは、長い目で見ると、かえって近道になるような気がします。・・・ビギナー向け論文の書き方、気が付いたらまた、書き足してみようと思います。